2002年3月8日
ユナイテッド航空で成田から北京へ。飛行機の入り口で航空券のチケットを見せたら日本人っぽいスッチーのお姉さんが英語でなんか言ってくる。「はてな」と思っていたら「席はあちらです」と日本語で冷たく言われた。俺の英語力はそうとうやばいらしい。切実だ。北京空港に着いたら日本人バックパッカーは見あたらなかった。今日泊まるところが決まってないから他の日本人にとりあえずついて行こうと思ったのに。時間が遅いからかも。時計を見たら10時過ぎ。空港は薄暗くてひんやり。ホテル案内のカウンターもすでに閉まっている。とりあえず両替しよう。場所がわからなくてうろうろしてたら優しくて怪しいお兄さんが両替所を案内してくれた。大学で中国語を一年勉強したとはいえ、ネイティヴの中国語は速すぎてわからん。英語は通じない。笑ってごまかせ。タクシーの客引きがしつこい。日本語を巧みに使うからなおさら怪しかった。留学してる友達に電話。大学の寮に泊めてもらえることになった。もうバスはない。となるとタクシー。どれが正規のタクシーなんだかわからん。150元(1元=15円)で乗せてくれるというおじさんが現れる。100元で交渉したら高速代が15元かかるからってことで120元になった。まあいいか。角刈りでごついけど悪い人ではなさそうだ。助手席に乗った。乗ったらメーターがなかった。今思えばこれはタクシーじゃない。普通の乗用車。不安だったけど、120元で約束したし大丈夫だろ。そう自分に言い聞かせたけど、尋常でない運転の荒さになおさら不安が募った。全然大丈夫じゃない。クラクションを鳴らしまくり、対向車が近くまで来ていても構わず反対車線に入って追い越す。ハリウッドのカーチェイスみたい。信号はもちろんほとんど無視。道路は街灯が少なくて山道のように暗い。高速道路に入る直前になって、なぜかスピードを落としてロータリーみたいなところをぐるぐる回りだした。どこか知らない場所に連れて行かれると真剣に思った。死にたくないよぉぉ。そしたら急にスピードをぐんとあげて出口から逆走して高速に入った。あまりのスピードに体が重力でシートに吸い込まれる。おじさんは笑顔。はぁぁ。高速代15元かかるって言うから120元でOKしたのに。浮いた高速代はもちろん返してくれなかった。高速道路をそのままの勢いですっとばした。時速160キロ。しかも、おじさんの喋った中国語に首をかしげていたら紙とペンを取り出して筆談を始めた。すごいスピードで走ってる車のハンドルを腕で押さえながら。おじさんがなにか書いてる間に前の車との車間距離はどんどん詰まっていった。おじさんは時々ちらっと前を確認するだけ。生きている心地がしないとはまさにこのことだった。友達と待ち合わせた「当代商城」には予想以上に早く着いた。あの運転ならあたりまえだけど。ぼったくられることもなく、「謝々」と笑顔で言っておいた。おじさんも笑顔。いい人だったんだか悪い人だったんだか。早く着きすぎて暇だった。道路をトラクターや三輪車やへんてこな車がたくさん走っている。空気が乾いていて、街はほこりっぽい。ぼーっとしてたら子供がバラを売りにきた。「5元」って言うから、しばらく話して3元で買ってやった。買ったらすぐに帰ってしまった。いい暇つぶしだったのに。げんきんなやつめ。寮では韓国人留学生のジフンと相部屋になった。シャイだけどいいやつ。
3月9日
一人で頤和園に行く。北京には大きな公園が多い。みやげ物屋で日本人だとばれていろいろ勧められた。180元のチャイナドレスを見ていたら「欲しい?」と聞かれて、金がないと言って70元見せたら「70元でいいよ」と言われた。買わなかったけど。みやげ物屋では値札はあてにならない。帰り道で三輪自転車と三輪バイクが客を乗せて競争していた。信号が青になると同時にスタートして、お互いに顔を見合わせて笑いながらスピードを上げていく。三輪自転車の運転手は笑ってはいるけど必死に漕いでいるから苦しそうだ。もちろんバイクが勝った。ほほえましい。
3月10日
いつまでも友達の世話になってるわけにもいかないので、ドミトリーのある新しいホテルを探した。その後リゥリーチャンへ。骨董品や焼き物が並んでいて、過去にタイムスリップしてしまったかのような街並み。みやげ物屋にかわいいお姉さんがいた。ほんわか系。「これほしいでしゅか?」とかわいい日本語で言うので、毛沢東のライターを40元で買った。後で日本人に聞いたら10元で買えるものらしい。すっかりだまされた。次に行った西単は北京の新宿と言われているところ。でも多くのデパートがイトーヨーカドーやダイエーみたいな雰囲気で、なんだか懐かしさを感じた。北京のカップルはどこに行ってもラブラブしている。夜の吉祥寺公園よりべったり。友達によれば風俗産業の取締りが厳しくてラブホテルがないかららしい。ラブラブな自転車二人乗りをしているカップルがいた。普通に自転車に乗っている男の人のももの上に女の子が横向きに座って、男の人の腰に両手を回している。そして二人で見つめあっている。あの状態でどうして自転車がこげるのか謎。ホテルには日本人バックパッカーがたくさんいた。ホテルの中にあるバーがおしゃれでいろんな国の人がいる。
3月11日
ホテルから出てる万里の長城ツアー。ぼろいワゴンに乗せられて3時間くらいかけて行く。道がでこぼこすぎて酔う。万里の長城は一緒に来た日本人2人と登った。登れば登るほど道端で売っている水が高くなる。初めは3元、頂上付近は15元。値段を高く言うときほど中国人は笑顔。でも交渉すればたいてい3元までは下がる。中国人はほんとがめつい。途中まで3人で登ってたけど、途中ではるきさんが高所恐怖症で登れなくなった。「一回下見てしまったら足がすくんでもう動かない」らしい。はるきさんははうようにして降りていった。あらら。それからしばらく二人で登ってたら、高橋さんが息を切らして「しんどいから戻るわ」と言って降りていった。高橋さんは30歳。あらら。変な日本人たちと来てしまったねこりゃ。で、一人で頂上へ。絶景。山登りに下りがなかったらいいのにと思った。
3月12日
淳と散歩。淳とはホテルで会って、たまたま大学が一緒で家から歩いて15分くらいのとこに住んでる。地球はせまい。留学してる大学の友達のあっこと毛沢東の絵の前で待ち合わせ。公園めぐりをした。スズメを食べた。まずくはないけど他の人が食べてるときに口からスズメの足がにょきっと出てるのは気持ち悪い。あっことラブラブカップルごっこ。「ウォーアイニー(愛してる)」「ウォーヤオニー(あなたが欲しい)」とささやき続ける。感情がこもってるほうが勝ち。照れたほうが負け。中国人が近くを通ると照れる。二人ともシャイだからな。
3月13日
朝から7時間かけて大同まで移動。「硬座」というシートが硬い切符なので、おしり力が必要。おじいさんと仲良くなる。娘が日本語教師をしてたらしい。おじいさんは日本語は喋れない。大同に着いたらいろいろ助けてあげると言うから、これは中国人の家へ遊びに行くチャンスだと思って「まだ今日のホテルが決まってないんです」と言って、「今日あなたの家に泊まりに行ってもいいですか」って中国語でどう言えばいいんだろうと考えているうちに、「いいホテルを探してあげよう」と言われてしまった。作戦失敗。大同のホテルでまた淳と会う。
3月14日
淳とタクシーを一日チャーターして(200元)大同巡り。タクシーの兄ちゃんに「ニーシースーグイマ?(あなたはすけべですか)」と聞いたら喜んでいた。なので、「あなたをすけべ先生と呼ばせて下さい」と言ったらもっと喜んでいた。車内は「すーぐいらおしー(すけべ先生)」の大合唱。みやげ物やで仲良くなった酒井法子と山口百恵が好きだと言う24歳の兄ちゃんも、すけべすけべと言ったら大喜び。中国男と仲良くなるのは簡単だな。晩ご飯のときぼったくられそうになった。3人で行って40元弱なはずなのに、105元って言われた。伝票を見ると全部高くなっている。しかも茶三杯15元って書いてある。茶で金を取られることは普通ない。日本人だからなめられたらしい。中国人と初めてけんかした。「メニュー見て頼んだんだからメニュー見せろ」って言ったら「メニューはなくなっちゃった」だって。笑顔で。「警察に電話するよ」って言ったら「私が警察です」だって。笑顔で。うざいよぉ。あげくの果てにはこっちが何を言っても「なに言ってるかわかんない」って憎らしい笑顔で言ってくる。らちがあかないからホテルの人を呼んできたけど結局50元までしか下がらなかった。でも、中国語でけんかできたことに個人的には満足している。
3月15日
大同は田舎。栄えている場所もあるけど、一つ道を入ると古ぼけたレンガ造りの家が立ち並ぶ。土の匂いがぷーんとする。道端で野菜や果物を売っていて、その横ではぼろい格好をしたおっさんや兄ちゃんたちが将棋やトランプをしている。のどかだね。りんごを一個(一元)買った。まるかじりして皮を道端にぺっぺと吹き飛ばしながら街を歩く。自分が中国人のような気がしてきて、いい気分になる。あまりにも中国人ぽかったせいか誰も声をかけてくれず、ちょっと寂しくなった。北京に戻るため駅へ。駅で中国人カップルと仲良くなる。俺の携帯を見てたいそうよろこんでおった。携帯にエロい画像でも取り込んでおけばよかった。中国ではエロ本やビデオは禁止。あるところにはあるのかもしれないけど。本屋で売ってる人体標本の本は女の人の裸のページだけみんなが開きすぎてぼろぼろになってるらしい。中国男はそんなの見てむらむらするのかな。なんだか同情してしまう。
3月16日
帰りの列車の中では特に誰とも話さなかった。ひととおり必要な中国語が話せるようになって中国にも慣れて、逆に初めの積極性が失われてきたような気がする。不思議なもんだ。故宮へ行ったらツアー客だらけだった。週末だからな。日本人ツアーもたくさんあったから、そのうち一つについて行ってガイドの説明をこっそり聞いてた。すると、そのツアーの女の子3人組みがちらちら俺を見て、「あの人だれー」「知らない」とひそひそ話を始めた。「だれだかちょー気になるんだけど」「なんかあやしくない?」だんだんちらちらがじろじろに変わっていく。「たぶん中国人だよね」「絶対そうだよー」「なんかさっきからついて来てたんだけど」「きもーい」完全に日本人だと言うタイミングを逃してしまった・・・。しゅん。日本語ペラペラの金さんと出会う。日中友好について熱く語った。金さんに勧められた天壇公園へ。静かでぽかぽかしてて、まぶしくて細めた目は思わずとろーんとしてしまう。ベンチに座って緑や空をぼーっと眺めてたら、子供たちが嬉しそうに寄ってきた。5人くらい。中国人じゃないってばれたらしい。みんな好奇心丸出しの表情をして俺を見る。無邪気でかわいい。一人の女の子が日本語を勉強する本を持ってたから、日本語を教えた。「すけべ」を教えたらみんなやっぱり大喜び。子供たちの人気者になるのも意外と簡単だ。夜に硬臥(硬いベッドの寝台車)で上海へ。最近中国語をよく誉められる。ひまわりの種の食べ方がかなりうまくなってきた。
3月17日
上海は東京に負けないくらい都会。急速に発展している。外人に慣れているせいか街の人は冷たい。晩御飯を食べている時に日本語学校に通っているビビという女の子に声をかけられ、明日一日上海を案内してもらえることになった。ビビは背が低いけどおそらく体重は俺より重い。元気でチャーミング。日本語がうまい。赤色が好き。
3月18日
ビビに上海のメインストリートを案内してもらう。マック、ケンタッキー、スタバ、吉野家とかは北京でも何回か見かけたけど、伊勢丹まであるのにはびびった。上海は北京に比べて街も人もおしゃれだ。洗練されている。北京のように上下赤ジャージで砂っぽい黒い顔をして歩いているおばさんはいない。ビビの通っている大学へ遊びに行く。流れで、日本語の作文の授業を一緒に受けることになった。先生は日本人で白石先生。「今日は日本の方が授業に来ているので一人一つずつ日本語で質問をすることにしましょう」って白石先生は言う。作文の授業のはずなのに・・・。質問か。困ったな。って思ってたらいきなり「上海の女の子をどう思いますか」って聞かれた。ストレートだね。「おしゃれでかわいい」と」答えておいた。無難だね。俺が日本語で答えられるだけに答えにくい質問も有利だな。その後も「恋人はいますか」とかそんなのばっか。ひたすら照れた。授業のあと揚子江へ。晩ご飯をビビとビビの友達と食べに行く。鍋をみんなでつついた。晩ご飯になって急にビビの人格が変わって引いた。全然俺を相手にしてくれないし、店員に切れっぱなし、ひたすら食べる。ビビはスプライトを5本飲んだ。たまに思い出したように笑顔で鍋の野菜や肉を皿にのせてくれる。それが逆に怖い。あまりに俺が引きすぎて別れ際に住所やアドレスの交換さえしなかった。
3月19日
椅子がブランコになっているおしゃれカフェ発見。兄がホームページのアイデアノートに載せた揺れる椅子のカフェそのもの。ただ、そのカフェはデートスポットになっていて、とても一人で入る気はしない。おしゃれな木の机をはさんで向かい合わせになったブランコの椅子に揺られながら、カップルは楽しそうにおしゃべりしている。夜、高級ホテルに雑技団を見に行く。45元。上海は都会すぎて飽きた。明日の夜上海を出よう。
3月20日
魯迅公園。いい天気。ベンチに寝転がって読書。中国へ来る直前にこっちで読もうと思って古本屋で買った「中国の鳥人」という本が驚くほどつまらない。で、いつのまにかうとうと。前にホテルで会った日本人と偶然再会。名前は忘れた。青島ビールを買って公園に一本だけある桜の木の下で花見。上海の地図を敷物代わりに。なんだかおつで、ビール一本で愉快になった。
3月21日
北京へ戻る。英語がペラペラの中国人少女クレミーに日本語を教えてと頼まれた。同部屋になったモンゴル人が相撲の話を嬉しそうにしてきた。エロすぎて困った。
3月22日
同部屋の日本人がチキンの手のから揚げをくれた。気持ち悪い。とさかみたい。
3月23日
中国最終日。クレミーに日本語を教える代わりにおみやげを買うのを案内してもらうことになった。いろんなものが安く買える。交渉した値段でだめって言われたら帰るふり作戦が効いた。さすが中国人。俺の英語があまりにつたなくてクレミーは少々呆れ気味。ちなみにクレミー19歳。クレミーの家に招待される。中国人の家に行くことはこの旅の目標の一つだったからうれしい。家に入った瞬間いきなり家族との卓球大会が始まった。はは。パパともママともおいっこの10歳くらいの少年ともクレミーともやったからへとへと。みんな負けず嫌い。家は普通のマンション。中もあまりに普通すぎて書くことがない。おいっこの少年は名探偵コナンが大好き。コナンのビデオを嬉しそうに俺に見せてくれた。夜はいとこやらおじさんやら親戚が集まって小パーティーになった。珍しい料理はウサギの肉くらいかね。苦しくなるまで食べた。家庭料理が出てくる出てくる。最後にふさわしいいい夜だった。